| 生産予測の不確定性評価と、その計算量の圧縮 |
レザーバーキャラクタリゼーションの究極的な目的は、炭化水素の生産予測に関する不確定性をより客観的に評価し、ひいては油/ガス田開発の経法的なリスクを定量化することにある。最新の手法を駆使して描かれた貯留層モデルも、無数の絵(Realization)フローシミュレーターにインプットして炭化水素の流れを予測し、そのばらつき具合を評価して初めて実利的な意味を持つこの分野へのGeostatistics応用が物性の連続性を重視しようとするのも、流体の流れを意議しているために他ならない。
しかしながら、貯留層の不均質性を表現すべく詳細な画素によって描かれた、統計的に有為な数のRealizationについて多相流のフローシュミレーションを行うのは、その計算量からして殆ど実際的でない。このため、かつて計算機の能力不足を補うために行われたさまざまの措置が、再びアクティブな研究分野として注目されつつある。
無数のStochastic
Realizationから出発し、生産予測の確率分布を得るのが目漂であるが、その過程において、さまざまの方法で計算量の圧縮が試みられている。大まかな分類とそれぞれの得失、最近の研究動向等を以下に述べる。
1.フロ−シミュレーションすべきRealizationの数を予め紋り込んでおく方法(ランキング)
簡単な方法で各々のRealizationがパラメーター化でき、そのパラメータと目的量(例えば回収率や水ブレ−クスル−のタイミング)との問に明らかな相関関係が期待出来る場合に有効である。例えば代表的浸透率と可採鉱量に良い相関が期待出来る場合は、まず全てのRealizationについて代表浸透率を求め、その最小値、10パーセンタイルイ直、20パーセンタイル値,最大値を与えるRealizationをピックアップしてフロ−シミュレ−ションを行う。得られた可採鉱量は、可採鉱量分布の最小値10パーセンタイル値、20パーセンタイル値と解釈することができる訳である。これが成り立つ為には、上述の相関関係は単調でなけれぱならない。
目的量に対して適切なランキング。パラメータを探すという作業が理論性に乏しいことから、これまでにあまり系統立った研究がなく、相互に関連性の薄い報告が散発的になされてきたという惑が否めない。しかしながらこの方法は他と違って、炭化水素回収のメカニズムについての分解能を損なうことなく計算値の圧縮ができるという利点がある。
2.より計算の早いシミュレ−ション法を使う方法
流線シミュレータがこれにあたる。多相系のフローシミュレーションは圧カ方程式と飽和率方程式を解くがこの方法は圧力方程式を解いて流線分布を求め、その上で1次元の飽和率方程式を解くもので、飽和率に解析解(Buckley
& Leverettプロファイル)等がある揚合は特に有利となる。モビリティの変化に応じて圧力方程式を再計算し、流線をアップデートしていく所はIMPES法にも似ているが、その回数を絞り込めるので計算時間をさらに短縮できる。
流線シミュレータのアイデアは新しいものではなく、60年代始めには既にPotentiometricとして報告されている。その後差分法シミュレータほどのめざましい発達は無かったが、EORやレザーバーキャラクタリゼーション技術の発達に伴って、(解析解があれば)数値拡散に影響されない点や、単純化した問題ではQuick
Lookとして使える点などが評価され始めている。流線の概念自体は2次元を対象としてきたが、最近上述のアップデートに準解析的手法が見つかり、3次元問題への速用も可能となっている。重力や毛管力、圧縮性等を考慮することが今後の課題である。
3.複数のFine
Gridを1つのCoase
Gridの代表物性で表現する方法。
3-1. 2相流のFine
Grid Simulation結果を使う方法。
貯留層の一部について2相流のFine
Grid Simulationを行い、その結果を使ってCoarse
Gridの代表浸透率と擬相対浸透率を計算するもので、VE法、Kyte&Berry法、Stoneh法などが知られている。垂直方向のCoaseningに使われることが多く、たとえ3次元モデルを2次元モデルにすれば、フローシミュレーションの計算値を数桁圧縮することが出釆る。但し擬相対浸透率は境界条件や置換速度などに影響される物性なので、目的とする回収プロセスに対する境界条件、粘性力、重カ、毛管力、分子拡散などの影響を正しく知った上で使わなければならない。
もともとFine Grid Simulationの解を使って擬相対浸透率を作る訳だから、計算対象とした部分についてはCoarse
Grid Simulation結果がFine Grid Simulation結果と一致する筈である。ところが必ずしもそうはならないという理論上の問題が指摘されてきた。すなわちFine
Grid Systemの個々のレイヤ−を最小単位として擬相対浸透率を求めろ場合、Coarse
Gridを代表するトランスミシビリティー、モビリティー、及び圧力差を厳密に定義することが出来なかったのである。ごく最近になって漸く、その解決策が得られた所である。また擬相対浸透率が飽和率の単調関数に必ずしもならないという問題が、手付かず状態で存在する。
3-2. Fine GridからCoarse Cellめ物注を直接定義する方法(Upscaling)
油層工学や地下水学おける現在最もアクティブな研究分野のひとつで、絶対浸透率のそれについてはスカラー,ベクトル,テンソルの全ての表示方法を含む、さまざまの方法が提案されてきた。そのなかで比較的広く受け人れられているものにRenormalization法とLaplace
Solverによる方法がある。Laplace Solver22(2次元)法とは2×2(2次元)のFine
Gridを電気抵抗のネットワークに見立て、その総抵抗の公式を使って浸透率を求めるものでこれを段階的に操り返すことによってCoarse
Gridの代表的浸透率を計算する。Laplace Solverによる方法はCoarseningとなる部分を取り出して圧カ勾配をかけ、非圧縮性の物質収支式(Laplace
Equation)を解いて得られた圧力と流速から、代表浸透率を計算するものである。圧力勾配も流連もベクトル量とみれば浸透率はテンソルとなる訳だが、−般的なのは圧力勾配に平行な境界をNo
Flowとするこどで対角要素のみ(つまり浸透率ベクトル)を計算する方法である。テンソル法の中で評価が高いのは、Periodic
Boundary Condition (PBC)すなわち前述のNo Flowでなく、対になった境界上の圧力が線対象となるようにして、Symmetricテンソルを導出するものである。
いずれの方法もFine Cell上での流れを厳密に再現することは出来ず。複雑な流れ系に対して実用に耐えるとは言い難い。間題の一つは、代表浸透率が境界条件に強く影響される物性だということである。すなわち個々のCoarse
GridへのUpscalingは,厳密にはフィールドの境界条件に強く影響される物性だということである。そのため最近の研究の多くは、Upscalingの際に適用する境界条件の工夫に精力を注いでいる。上述のPBC法はその1例だが、さほど改善したとはいえない。もうひとつの間題はFine
Gridの集まりとして、物質収支を満たすべく計算されたCoarse Gridの物性は、Coarse
Grid Simulation中で点として取り扱われるための物理的な要求を必ずしも満たさないということである。例えばLaplace
EquationをFine Grid上で解き、その結果を使って計算されたCoarse Grid浸透率テンソルはSymmetricとはならない。一方、点の物性としての浸透率テンソルはSymmetricとなるべきことが、熱カ学第2法則に関連したのOnsagerの定理に拠って要求される。予め形状の決められたグリッドシステム上では,この2つの要求を同時に満たすことは不可能であることから,Laplace
Solutionを使ったフレキシブルグリッティングの方法も提案されている。
これまでに提案されたUpscalingのうち、2相流まで拡張されたものは非常に少ない。そのなかに上述のRenormalization法とPBCテンソル法があるが、これらがその単相バージョンの間題点を引き継いでいることは言うまでもない。またFine
Gridの相対浸透率をそのまま使うことも考えうるがこれは大きな誤解である。Coarse
Gridの相対浸透率は、サブグリットでの絶対浸透率バリエーションで殆ど決まってしまうため、仮に全てのFacyに同じRock
Curveが与えられていても、Coarse
Gridの相対浸透率曲線は全く違ってくる。新しいアプローチとして、流線の壁に基づく方法が考案されつつある。
不均質孔隙媒体中の多相流モデリングの研究はまだ課題が多く、上に述べた間題点のなかにも、未だ広く認識されていないものもある。レザーバーエンジニアはこうした得失と、そこから生じる適用範囲を十分認識した上で、複数の手法を自在に使い分けられることが必要となるであろう。貯留層の数値モデルを構築するにも、数値計算を高速化する新しい手法を提案するにも,それらを使ってフローシミュレーションをするにも、貯留層流体の挙動に対する徹底した理解が不可欠なのである。