深掘技術分科会14年の歩み

1984年9月28日 第一回分科会開催。活動方針:文献調査によりDeep Drillingの実状を調査する。

1986年度
基礎試錐留萌、高田平野について具体的な掘削技術のレビューを実施。

1987年度
特定のタスクは規定せずに情報交換、親睦の場(一年に四回)として各社持ち回りでプリゼンテーションを行う。

1988年度
超深部陸上科学ボーリングの要素技術と技術動向に関する文献調査実施。15,000m掘削計画と現状技術について、KTB大陸超深部掘削プロジェクトの紹介、関連文献の翻訳、発表。

1990年度
技術資料「超深部学術ボーリングへのアプローチ」編纂

1991年度
学術ボーリングの目的を地球科学者よりのヒアリングをとおして明確にし、坑井の設計条件を設定する。これに係る要素技術の調査、分析を行う。

1992年度
坑井条件の抽出。ケーススタディ坑井の設計条件の設定について。

1993年度
KTB関連資料の内容検討。海外の深掘井の事例調査

1994年度
KTB関連資料の内容検討。海外の深掘井の事例調査

1995年度
10,000m坑井ケーシングデザインの検討。高温用泥水について調査、検討

1996年
大深度掘削に関する世界の記録を調査、整理する。日本における超深度科学掘削の条件を想定し、各要素技術の調査を行うとともに、掘削計画を検討する。

1998年
分科会活動を終結



● 世界と日本の大深度掘削記録
坑 井 名 所 在 地 掘削深度(m) 目  的 坑底温度(℃)
SG-3 Superdeep Hole ロシア・コラ半島 12,261 1992 科学掘削 205
Bertha Rogers No.1 米国・オクラホマ州 9,583 1974 天然ガスの試掘
KTB ドイツ・バイエルン州 9,101 1994 科学掘削 260
基礎試錐「新竹野町」 新潟県 6,310 1993 基礎試錐 197
基礎試錐「三島」 新潟県 6,300 1992 基礎試錐 226





KTB:Kontinentales Tiefbohrprogramm der Bundesrepublik Deutschland(ドイツ大陸科学掘削計画 )

1. KTBプロジェクトはドイツ科学財団・地科学委員会のワーキンググループによって1978年に創始された。

2. 目的
大陸の地球物理学的な構造について基本的なデータ(歪みの大きさ、方向、大陸地殻の進化をモデル化できるような情報、熱分布、熱源、熱の流れに関する情報)を収集する。

3. 地質
ボヘミアン地塊の西端、ドイツOberpfalz地方。3億2000万年前にSaxothuringianプレートとMoldanubianプレートが衝突することによってできたSuture zone(縫合帯)を貫通する予定であった。

4. パイロットホールの掘削(KTB Vorbohrung: KTB-VB)

4.1 目的
(1) 最大限の地科学情報を最小限のリスク、低コストで入手する。
(2) メインホールの浅部、大口径区間でのコア掘り、検層を最小限にする。
(3) 温度勾配を実測しメインホールでの温度予測を修正する。
(4) 溢・逸泥、崩壊など掘削上の問題地層有無の確認。
(5) メインホール掘削のための掘削・検層機器のフィールドテスト実施。

4.2 掘削期間:1987年9月〜1989年4月(560日)

4.3 掘削深度:4000.1m

4.4 温度4,000mでのBHSTは118℃であった。この値を直線的に外挿すると10,000mでのBHSTは290℃となる。

4.5 全深度をコアリング、回収3594m(回収率:90%)、ワイヤーラインコ ア回収技術を活用

パイロットホールにおけるコアリングの効率を高めるべくThin Kerf Diamond bitとアプセットの小さいドリルパイプ(ドリルロッド)を採用した。使用された5.5"OD×9mドリルパイプのツールジョイントは、外側がフラッシュ(平ら)で内側が少しアプセットになっている。内側が少しアプセットをもっている理由は、ツールジョイントのトルクと引張りの強度を増すためである。最大トルクは2,240kg-m、最大引張りは234tonであり、3,000m の空中重量で安全率2.0を達成している。ドリルカラーのODは、5.5"と同じであるが、肉厚は14.2mmとドリルパイプの肉厚の倍ある。(図2-4-3 KTB-EC Wireline ドリルパイプとドリルカラー)
アニュラスの公称間隙は、6.3mmである。磨耗を防ぐためにドリルパイプのボックスエリアとドリルカラーのピンとボックスエリアにハードフェーシングが施された。
パイロット坑で採用した連続ワイヤーラインコアバーレル(KTB-EC Wireline Core Barrel)の開発は、KTBとEastman Christensen(BHI)が共同で行った。
478mで8-5/8"ケーシングをセットした後は、掘り止めの4,000.1mまでKTB-EC Wireline Core Barrelで、6"坑の連続ワイヤーラインコアリングを行った。この区間のコア回収率は、98%であった。この連続ワイヤーラインコアリングの区間で約70個のダイヤモンドコアビットが使われたが、9個がSurface-Set Diamond Core Bit 図2-4-5で、残りは、Diamond Impregnated Core Bit 図2-4-6である。
Eastman Christensen(BHI)社は、KTBのパイロットホールでDiamond Impregnated Core Bitの改良を重ね、最終的に改良されたタイプは、12のセグメントがビットボディと接合しており、セグメントの高さは18mmである。セグメントにおいてマトリックスと混合されている合成ダイアモンドのサイズは、32〜50メッシュ(0.25〜0.5mm)である。地層を掘削するとマトリックスが磨耗するにつれその中に散在するダイヤモンド粒子が現われて掘削を行う。またビットのゲージ磨耗を防ぐために、ビットの内側・外側共に三角形の合成ダイアモンドカッターがセットされている。表2-4-3にパイロットホールで使用されたSurface-Set Diamond Core BitとDiamond Impregnated Core Bitの実績を示す。

5. 超深度井の掘削(KTB Hauptbohrung: KTB-HB)
当初の到達目標深度は12,000mであった。しかし、パイロットホールで測定された地温勾配から深度10,000mで坑底温度が300℃に達すると予想されたため、10,000mを新たな目標深度に設定した。

(1) 1990年10月6日に開坑され、1994年10月21日深度9,101mに到達した。
世界で最大の掘削リグUTB-1:最大フックロード816トン、12000mまでの掘削が可能。130ft(40m)スタンドのドリルパイプを取り扱う。全高83m(サブストラクチャ11m)、自動パイプハンドリング装置、マッドポンプ:入力1663HP/5000psi x 2基、BOP:10,000psi w/p
Japex 1625-DE:フックロード645トン、サブストラクチャ10m、マスト48m

(2) クリアランスの少ないケーシング計画(Slimline Concept)

坑径(in)
掘削深度(m)

CSG外径(in)

接続部外径(in)

セット深度(m)
クリアランス
管体(in) 接続部(in)

28

305 24-1/2

25.5000

290.0

3.500

2.5000

17-1/2

3,003

16 & 13-3/8

16.2560

3,000.5

1.500

1.2240

13.6020

1.375

1.1480

14-3/4

6,018

13-5/8 & 9-5/8

13.8740

6,013.5

1.125

0.8760

9.7840

2.625

2.4660

12-1/4

7,790 10-3/4 liner

11.0240

7,784.8

1.500

1.2260

8-1/2

8,729 7-5/8 liner

7.7760

8,865.0

0.875

0.7240

6-1/2

9,101 5-1/2 liner

5.5985

9,031.0

1.000

0.9015


(3) ドリルストリング
深度(m) 管体外径(in) 材質 コネクション T/J外径(in) 重量(ton)

0〜 1,300

5-1/2 U-145 NC61 8.000 70.7

〜 3,050

5-1/2 U-145 NC61 7.626 82.1

6,100

5-1/2 U-145 NC61 7.374 125.3

7,000

5-1/2 S-135 NC56 7.252 31.3

8,100

5-1/2 S-135 NC56 7.252 38.4

9,900

5 S-135 NC56 7.252 51.5

10,000

BHA 17.2


(4) コア掘り
メインホール掘削区間においては100%の連続コアは必要ないという理由から、フェーズ3では全長に対し最大でも25%までのコアリングしかしないとし、従来のスポットコアリングによる方法で行うことにした。そのため揚降管時間を短縮することが重要な課題となり、ドリルパイプ1スタンドを40mにしたり、パイプハンドリングシステムを用いることにした。パイロットホールのTD 4,000m以深から14-3/4"坑の掘止め深度の約6,000mまでスポット的にローラーコーンコアビットによるコアリングが行われた。図2-4-7に14-3/4"ローラーコーンコアビットの写真を示す。これは、8-1/4"×4"のダブルチューブコアバーレルで行われたが、深度の増加と共に回収率は約70%から40%へと悪化していった。パイロットホールでも言えたことだが、ローラーコーンコアビットは高寿命だが、コアの回収率とクオリティーは低い。13-3/8"ケーシングを約6,000mにセットした後、12-1/4"掘進がおこなわれたが、ここでのコアリングはパイロット坑で使用したThin kerf Diamond Impregnated Core Bitを採用した、LDCS(Large-diameter coring system)というものであり、9-1/4"の径のコアを採取できる。コアの経を大きくしたのは、ひとえにビットをThin kerfにして掘進率を上げ、延いてはコア回収率を高めるためである。実際14-3/4"ローラーコーンコアビットによるコアリングに比べてはるかに優秀なコア回収率を示した。ビットは、外径12-1/4"、内径9-1/4"、コアバーレルの外径は、11-3/4"である。駆動は、9-1/2"のダウンホールモーター(Mach 1)が使用されている。



(5) 泥水

●Dehydril-HT泥水システム
KTBパイロットホール(掘削深度4,000m、変成角閃岩・準片麻岩等、坑底温度118℃)ではHenkel社のDehydril-HT泥水(合成ヘクトライト)が使用された。この泥水は、水中ではPhyllosilicateのコロイド溶液であり、Si、Mg、Na、Li等の元素を含む清水ベース泥水である。また陽イオン交換容量が高いのでベントナイト主体の泥水に比べて、少ない添加剤で高い粘性が得られる。これにPHコントロール剤としてNaOH(苛性ソーダ)を添加した。Dehydril-HT自体は、350℃までの耐熱性を持ち、この泥水システムは250℃以上の耐熱性があるとされている。
問題点は、掘管に局部酸素腐食であるCorrosion Pitting(孔食)が発生したことと、水に敏感な破砕帯の崩壊であった。孔食は、泥水が小球状に掘管に付着し、この中に取り込まれた気泡を通じてパイプの鉄イオンが放出された結果生じたものである。

●Dehydril-HT/Hostadrill泥水システム(別称D-HT / HOE KTB泥水)
パイロットホールにおけるDehydril - HT 泥水の孔食問題を軽減するために、メインホールの2,100 m以深では、Hoechst社のHostadrill 3118(高温度用ポリマー:ビニルアミド/ビニルスルホン酸コポリマー)を添加したD-HT/HOE KTB泥水が採用された。
これによって泥水の流動特性も向上し、脱水量も減少し、さらにパイロットホールで生じた腐食問題も低減した。しかし、12-1/4"坑掘進中、7,125m付近から坑径が、40"以上になる崩壊問題が発生し、ホールクリーニング性も悪化した。この崩壊は、角閃石の水によるフラクチャー強度低下、毛細管現象により生じたマイクロフラクチャー間に浸入した遊離水が引き起こすストレスコロージョンクラッキング、さらに地層圧が泥柱圧より50ksc以上も高いことによると予想された。この泥水を110℃×16時間ダイナミック養生して、低シアー、高温高圧下での粘性を調べたところ、粘性測定メーター(VGメーター)の 6rpm / 3rpm の読みが 3 / 3 と低く安定性に欠けていることが分かり、D-HT/HOE KTB泥水が限界に達したと判断しPyrodrilを混入する次の泥水システムに移行していった。この時点での坑底静止温度は約200℃であり、坑底循環温度は100℃であった。

●Pyrodrill 泥水システム
掘削前に高温度対策として、北海で使用されている有機エステル(Organic Ester)を用いたオイルベースマッド(300℃での高温下の使用も可能)を準備していた。しかし、ラボテストの結果から、D-HT/HOE KTB泥水システムにBaker Hughes Inteq社のPyrodrill を混入し、最終的にこのウォーターベース泥水システムに切り替えることになった。
システム自体は、ベントナイトとAMPS系ポリマーを主体としたもので、600 degF(315℃)以上の地熱井で、またWeighted Mudとして500degF(260℃)に近い環境での使用実績がある。

要求されたPyrodrillシステム泥水の特性は、

ホールクリーニング性を高めるために粘性(6rpm / 3rpmの値)を上げる。
脱水量の低減
泥水自体の遊離水保持力を強くするため、CST値(Capillary Suction Timer)を増加させる。
泥水比重を上げることで、坑壁を機械的に支える。
である。

対策として以下のような調泥方針が取られた。

温度と電解質に鋭敏なDehydrill HTを一部ベントナイト(Baroid社;Aquagel)に交換する。
バライトを添加し泥水比重を1.06SGから1.20SGまで上げる。
次のような各種添加剤を使用する。
Pyro-Trol(脱水調整剤;Synthetic copolymer of acrylamide-AMPS)
Kem-Seal(脱水調整剤;Synthetic copolymer of 2-acrylamide-2-methyl-propane sulfonic acid/N-alkylacrylamide)
Mil-Temp(分散解こう作用、流動特性、脱水性の安定化、主にベントナイトの高温下でのゲル化防止;Low molecular-weight copolymer:SSMA)

Pyrodrillシステム泥水の耐熱性は、220〜250℃であり、坑内に問題が無ければ300℃まで使用する予定であった。またPyrodrillによる腐食レートは比較的低いことが証明されている。
実際、この泥水システムは、KTBメインホールのTD(9,101 m )に到るまで使用され、この高温条件下での優れた安定性が実証された。

(1) ドリリングハザード
7000m付近から崩壊(Breakout)が著しくなり坑内浚いの連続となった。坑底温度が予想より高く、VDS、MWD、ロックビット等掘削機器の耐温限界に到った。このため7000m以深で坑井傾斜が急激に増大し、深度8600mで21度に達した。増大する揚降管時間と低掘進率(8000〜9000m区間の平均掘進率は2.3m/day)

(2) 裸坑の安定性
KTBは、掘削中崩壊やウォッシュアウト、アンダーゲージ等、極めて深刻な坑壁不安定性の問題が生じ、ドリルストリングスが何度も抑留され、3回のサイドトラックを余儀なくされている。掘削された地層は、地表からすべて結晶質岩でそのほとんどが片麻岩及び角閃石である。またここは、2つのテクトニックユニットの境界であり、極めて大きなテクトニック運動を受けた断層帯である。石油掘削は、一般に堆積岩を掘ることが多く、結晶質岩と適合する泥水というものが堆積岩ほど研究されていなかった。また、極めて大きなテクトニック運動を受けた断層帯をどう掘るかということも堆積岩ほど研究がなされていなかった。坑壁不安定に関する特徴は、深度によって異なるがそれぞれ次のようなものがある。

崩壊は掘削後直ちに生じ、ある程度崩壊が進むと安定する。
コアディスキングプレーン現象…採収したコアが応力開放のためコア水平方向にディスク状に割れる現象がみられる。水平ストレスの非等方性を示している。
地質的には、相対的に角閃石より岩石強度の小さい片麻岩が、より大きな崩壊を生じる傾向がある。
互層部における岩石強度の差が極めて大きく、そのため棚状の崩壊を生じる傾向がある。(KTBにおける代表的岩石強度:角閃石層52MPa、厚い片麻岩層38MPa、薄い片麻岩層2.3MPa)
マイクロフラクチャーに沿って崩壊する。すなわちマイクロフラクチャーのネットワークに泥水のろ水が浸透することによる崩壊。
地層の水平方向の最大ストレス方向が、アンダーゲージとなっている。特に、水平方向の最小ストレス方向が、50〜70°の角度でディップした層で顕著である。これらの問題の対策として次のことが行われた。
適正泥水比重の維持
泥水比重を増加させることは、泥水柱圧力による坑壁のサポーティングという点では、坑内安定のため良いが、高すぎる泥水比重はろ水のマイクロフラクチャーへの浸透を誘発し、反対に坑内不安定に導く。・脱水特性の改善
脱水量、特にHPHT脱水量を減少させることによって坑壁をシールし泥水柱圧力による坑壁のサポーティング効果を助け、そしてマイクロフラクチャーへの水の浸入を防止する。
物理化学的性質の改善
地層のマイクロフラクチャーがろ水を吸収し、亀裂の成長を加速させるのを防止するために、泥水のウォーターボンディング性を高めるのが効果的である。ウォーターボンディング性の試験としては、Capillary Suction Time (CST)法がある。グリコールやグリセロールを添加することは、ウォーターボンディング性を高め、マイクロフィルトレーションによる水の浸入を防止する。KTBでは、深度8,714mにて浚い困難なため5vol%のグリコール混合物が1回添加された。

■ 科学者の要求が掘削作業をより困難にする
地科学情報入手のための長時間作業休止。カッティングによる岩相調査及び地層水・ガスサンプル採取のための泥水組成に係る制限(調泥剤を無機質に限定)

■ 費用
当初4億5千万マルク(360億円)の予算で開始されたが、実際に投下された費用は5億2800万マルク(422億円)であった。

項  目

予算額1988年
(ドイツ/マルク)

予算額 円換算
(80円/マルク)

実績1982-1994年
(ドイツ/マルク)

実績 円換算
(80円/マルク)
科 学 研 究 費 60,000,000 \480,000,000
技 術 開 発 費 60,000,000 \480,000,000
パイロットホール掘削費 30,000,000 \240,000,000 26,515,000 \2,121,200,000
メインホール掘削費 250,000,000 \2,000,000,000 266,948,000 \21,355,840,000
運 営 費 50,000,000 \400,000,000
総   額 450,000,000 \3,600,000,000 527,800,000 \42,224,000,000

●超深度掘削計画
JUDGE(Japanese Ultradeep Drilling and Geoscientific Experiments Project)計画
通産省工業技術院地質調査所が主導する、深度10,000mの観測井により太平洋側で巨大地震を引き起こすフィリピン海プレートの動きを直接監視しようとの構想。

●困難さ
1. 高温(掘削・検層機器及び泥水の耐温限界)
2. 10 kmの超深度(膨大な作業時間、作業効率の徹底向上、鉛直坑跡の維持)
3. 応力場の不均衡(坑壁不安定性、坑内トラブル)
4. 科学掘削であること(地科学情報入手のための徹底的な調査、この調査のための長期間作業休止、作業方法の制限(泥水タイプ、連続コア掘り)、方針決定の主導権)
5. 事前調査(未知の条件が山積み、温度、圧力予想困難)
6. 実施体制と予算(前提条件として技術のブレークスルーと巨額の資金投入が必須)

1. 坑内温度予測

深度10,000m でのBHSTは400℃と想定する。シミュレータにより深度10000mでの坑内温度プロファイルを予測すると、

(1) 循環・ボトムアップした段階で350℃まで降下する。
(2) 2日間循環を続けると坑底温度は300℃で安定する。

これらのことから各要素技術の目標温度は350℃設定することが妥当と思われる。また短時間であれば400℃に近い高温に耐えられる坑内機器の開発を目指さす必要がある。

2. ドリルストリングの設計

超深度掘削のための対応策

(1) 軽い材質のドリルパイプを使用する(高温下でイールドストレングス低下)
(2) 高強度の材質を使用する(材質として衝撃に脆く、割れを生じやすい)
(3) 浅部には肉厚のパイプを使用する(最も現実的な対応策)

3. ケーシング計画


4. 仮想泥水比重


5. 坑内機器(エラストマー、電子機器の耐温度限界)

(1) ダウンホールモータ:175℃(350・)
(2) タービン:240℃、
(3) 近い将来フルメタル型タービンが開発される:350℃?
(4) 垂直掘進装置(VDS-5):175℃
(5) コアリングツール:コアバレルの耐温限界は鋼の強度低下が始まる300℃といわれる
(6) MWD(電子機器、リチウムバッテリー):150〜175℃。またマッドパルステレメトリーの深度限界は8,000mと言われている。


エラストマー材の耐温度性能比較

6. セメンチング

(1) ハードウェアの耐温限界
フロートシュー:210〜250℃
ステージツール:135℃
ライナーハンガー:260℃

(2) 硬化セメント性状の退化(Retrograde)

(3) ポルトランドセメントにシリカフラワーを添加して、400℃の高温度下でも脆化しないセメント材ができる。

(4) セメントスラリーの性状

地熱井ではその深度が比較的浅いため、たとえ坑底温度が350℃であっても坑内循環によって150〜170℃まで下げることができる。しかし、10000m、400℃の条件では1週間循環しても坑内の最高温度は260℃までしか低下しない。高温用セメント添加剤の温度限界は220〜250℃であり、技術的に大きなハードルがある。

7. ロックビット

(1) 200℃まではトリコーンビットが使用できる。

(2) ダイヤモンドビットの使用が望ましいが
高速回転を得るためのダウンホールモータの温度限界が制限となる。また、火山岩の掘削に適したダイヤモンドビットの開発が先決。 例えばDiamond Impregnated Bit(250 stones/carat)、基礎試錐富倉にて七谷層の掘進に使用実績がある。タービンとの組み合わせが必須。


8. 泥水

(1) サーマビス/G-500S泥水
250℃でも安定した泥水性状を示すことが実験で確かめられている。
サーマビス(ハイパーゲル):無機合成ポリマーの増粘剤
G-500S:フミン酸(リグナイト)/アクリル酸コポリマー誘導体(無機合成ポリマー)の分散剤。ローソリッドの地熱井では350℃までの使用実績がある。

(2) KTBにて掘り止め深度の9101mまで使用されたPyrodrillシステム泥水の耐熱性は、220〜250℃であり、坑内に問題が無ければ300℃まで使用する予定であった。

(3) BHIのSynthetic based Mudの耐温限界は440・(230℃)である。


調泥剤の耐温度性能

9. 腐食の防止

10,000m級の超深度学術ボーリングにおいても、ドリルストリングスやケーシングの腐食が考えられる。種々の原因の複合的作用によるものであろうが、一般腐食理論からすれば、最も可能性の高いのは応力腐食割れ(水素脆化)と疲労腐食である。その理由は下記の通り:

パイプの総重量が大きいため、浅いところで大きな引張応力がかかる。
大きな引張応力のかかる浅いところは、バクテリアの繁殖域であり、また温度も亀裂を起こしやすいといわれている150°F以下である。
ドリルパイプは、割れの生じやすい高張力鋼が使われる。
高温のため、泥水中の有機物が熱分解してH2SやCO2を生じやすい。
頻繁な揚降管作業により、ドリルパイプに大きな引張とその解放が、またツールジョイントには締め付けトルクとその解放が繰り返され、ドリルストリングに疲労が蓄積しがちである。
頻繁な揚降管作業によって、トング跡やスリップ跡がつきやすい。

これらの腐食を防ぐにあたって、次の対策が考えられる。
(1) 泥水に、熱分解してH2SやCO2を発生しがちな添加剤をなるべく使わない。
(2) 泥水のPHを常に適正に(高めに)維持する。
(3) トング跡やスリップ跡が極力つかないようにする。例えば、KTBのようにスリップを使わず、エレベーターを2つ使って揚降管する。
(4) ツールジョイントに余剰応力が残らないように締め付け時のトルク管理を徹底する。ケーシングパイプについては、ネジをプレミアムジョイントにすることによってカップリングの応力腐食割れを防ぐ。
(5) 地層中に非常に多くのH2SやCO2がある場合は、それに侵されにくい材質(例えば13Cr等)のパイプを使用する。

KTBプロジェクトにおいても、パイロットホールで掘管に孔食が生じた。この問題に対する検討によって泥水を改善したところ、メインホールでは腐食問題は解決した。国内で想定されている10,000m級超深度井においても、パイロットホールで生じた問題をその都度検討し、学習結果をメインホールに活かすことはいうまでもない。

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