石油技術協会平成11年度の見学会は、春季講演会終了後の5月28日(金)に催された。今年の見学会は、一昨年、昨年同様、地層の見学と天然ガス生産施設の見学の2部構成であった。地層の見学については千葉大学理学部助教授の伊藤 慎氏を講師にお招きし、千葉県東部の犬吠埼周辺に分布する白亜系および更新統の浅海成堆積物の観察を行った。また、天然ガス施設の見学では帝国石油(株)千葉鉱業所次長の大西清文氏と同社探鉱部主査の清水俊秀氏を案内者にお招きして、同社の成東第一プラントと坑井基地を見学させていただいた。今回の見学会は、当初東京近郊であるため、参加者が少ないのではないかと危惧されたが、予想に反し盛況で、途中から申し込みを断るほどであった。見学会には地質技術者、生産技術者ほか、合計43名の参加があった。

見学会当日は、午前8時40分に千葉県前に集合し、遠方から参加されたかたが多かったにもかかわらず集合状況がよく、予定どおり午前8時50分に出発した。途中酒々井で休憩を取った後、地層見学の最初の地点である犬吠埼に向かった。この間、地質調査所資源エネルギー地質部燃料鉱床研究室室長の徳橋秀一氏と千葉大学理学部の伊藤 慎氏より、配布された資料に基づいて千葉県全体の地質概要と見学地点の地質などについて説明がなされた。

ここでは犬吠埼灯台周辺に発達する下部白亜系銚子層群犬吠埼層の露頭観察を行った。犬吠埼層は主に浅海成の砂岩からなり、ところどころシルト岩や泥岩を挟有している。砂岩中には嵐によって形成されたと考えられる緩くうねったようなハンモッキー斜交層理やトラフ型の斜交層理、平行葉理がよく発達しており、一部礫が含まれている。また、ハンモッキー斜交層理が発達する砂岩には局所的に生物擾乱が認められ、層理が不明瞭になっていることもある。ハンモッキー斜交層理が認められる砂岩の基底部にはところどころでソールマークがみられ、一方向の強い流れがあったことが示唆される。本層中には生痕化石として巣穴と這い跡の両方がみられた。ハンモッキー斜交層理が認められる砂岩の単層厚は、ここでは一般に30〜50cmで、こうした堆積物の層厚としては厚いとのことであった。このことは、白亜紀の嵐が現在みられる嵐よりもはるかに激しかったことを物語っているのかもしれないとのコメントが伊藤氏よりなされた。また、ハンモッキー斜交層理の発達する砂岩は、1,000年に1度くらいの割合で発生した巨大な嵐によって水深30〜40m付近で堆積したと推定されている。埼玉県西部の山中地溝帯には犬吠埼層と同時代の地層(石堂層、瀬林層、および三山層)が発達するが、これら両地域では堆積シーケンスの形成がローカルな構造運動に支配されていたことが最近の研究によって判明した。なお、犬吠埼層の地質年代は本層中に挟有される泥岩中から産出するアンモナイトによって決定されているとのことであったが、残念ながら今回はアンモナイトを発見することはできなかった。この後、みさき亭でボリューム満点の昼食をいただき、その後次の見学地点である屏風ヶ浦に移動した。

屏風ヶ浦は東洋のドーバーとして名高い(地質調査所の徳橋氏によれば、本物のドーバーよりも屏風ヶ浦のほうが雄大であり、これからはドーバーは西洋の屏風ヶ浦と呼ぶべきではないかとのジョークも飛び出した)。屏風ヶ浦は現在50〜100cm/年の割合で後退していると言われ、海食崖の主要部(下部)は上総層群(おそらく国本層下部)の大露頭からなる。余談はさておき、ここでは屏風ヶ浦の海食崖の上部を構成する上部更新統香取層の浅海成堆積物の観察を行った。香取層は約12万年ほど前に堆積した地層で、詳細な堆積学的研究によって2回の海進・海退サイクルが発達することが明らかとなった。伊藤氏によれば、本層における1回の海進・海退サイクルは、岩相的には下位からリップルの発達する礫層(海進の開始)、ハンモッキー斜交層理の発達する細粒砂(海進の進行)、トラフ型斜交層理の発達する粗粒砂(海退の開始)、および平行葉理の発達する砂(海退の進行;海浜成堆積物を特徴づける)からなるとのことであった。なお、1回目の海進・海退サイクルでは最初の2つの岩相は草に覆われており、ここでは観察できなかった。

この日の屏風ヶ浦は非常に風が強く、十分時間をかけて観察を行うことはできなかったが、伊藤氏のわかりやすい解説で最近の堆積学の進歩をかいま見ることができたのは、今後の石油探鉱を考えるうえで非常に有意義であったと思う。

ここで地層の見学は終了し、この後バスは成東の天然ガスプラントへと向かった。プラントに着くまでの間、帝国石油(株)千葉鉱業所の大西氏と同社探鉱部の清水氏より配布された資料などを用いて、同社による千葉県内での探鉱の歴史と成東ガス田の概要について説明を受けた。帝国石油は昭和31年に成東、東金地区に鉱区を取得した後、昭和35年11月、成東地区において掘削を開始した結果、深部から浅部にかけて数層の天然ガス鉱床を発見し、これが成東ガス田開発の端緒となった。以下に成東ガス田の概要についてまとめる。

現在千葉県内で帝国石油が水溶性天然ガスを生産しているのは成東ガス田のみである。成東ガス田は九十九里地域中部に位置し、昭和35年11月の発見以来、現在まで60本の坑井が2期の開発期に分けて掘削されている。その第1期は昭和35年12月から昭和37年3月までで、この間34坑が掘削された。第2期は昭和45年3月から平成5年12月までで、この間断続的に22坑の坑井が掘削された。さらに、平成9年〜平成10年には老朽化した坑井の掘り直しとして4本の代替井が掘削された。第1期に掘削された開発井は、長年稼動したケーシングの老朽化に伴う破損のため廃坑され、現在稼動しているものは数える程度にすぎない。一方、第2期に掘削された開発井は、地盤沈降を考慮して比較的標高の高い山間地に掘削された。これらの坑井は揚水量を確保するために大口径となっており、現在成東ガス田の主力坑井となっている。成東ガス田はガス水比が2以下の低い値で長期間安定している通常型鉱床からなり、ガスを生産するためのかん水の揚水方法はポンプを用いて行われている。

成東ガス田では、産ガス層準はすべて更新統・上総層群中に発達しており、深部の黄和田層と大原層(深度1,000〜1,200m)、および浅部の梅ヶ瀬層と太田代層(深度1,200〜1,800m)が主要ガス層として仕上げられている。ガス・水比が最も良好なのは大原層で、その深度は1,500〜2,000mほどである。貯留岩性状は太田代層、梅ヶ瀬層、黄和田層の順でよくなっており、ヨードの含有量も黄和田層が最も良好である。これらの貯留岩は主に漸深海帯で堆積した砂岩泥岩互層からなるが、梅ヶ瀬層の上部は泥質になっている。また、浪花層と黄和田層は地表で泥がち互層であるが、地下では砂がち互層である。本ガス田のグロスペイは300〜500mで、茂原ガス田に比較して砂岩が卓越している。

ここでは成東ガス田第一プラントを見学させていただいた。本プラントには4台のコンプレッサーが据えつけられているが、バックアップのためで、常時4台とも稼動しているわけではないとの説明があった。大きなコンプレッサーの能力は58,000m3、小さいものは18,000m3で、生産用に使用されている。現在、本プラントでは日量45,000m3のガスが生産されているが、冬場はもっと増えるとのことであった。前述したように、成東ガス田の水溶性ガスは通常型で、水中ポンプで汲んでいる(これに対してガス水比の高い茂原ガス田ではガスリフトで生産されている)。ポンプは出砂によってベアリングが摩耗してしまうため、その寿命は一般に20,000〜30,000時間である。ポンプの設置深度は350〜360mで、静水位より200mほど低い。生産に際してはFRP製のパイプが効果を発揮している。かつて鉄管を下げたことがあるが、鉄管は腐食してしまった経緯がある。生産ガス中には二酸化炭素はほとんど含まれていないので、腐食の原因は地層水と考えられる。地層水の塩分濃度は基本的に海水と同じ(NaClで30,000ppm)であるが、ヨードの濃度が高い(平均で94〜95ppm)点で海水と異なっている。

ポンプによって汲み上げられたガスとかん水はセパレーターで分離され、ガスはコンプレッサーで圧縮された後、細草ライン、成東ラインなどのパイプラインを通して販売先へ送られる。一方、かん水は送水ポンプを用いて伊勢化学(株)のヨード工場へ送られ、ヨードが分離される。ヨードについては過去の見学記にも詳しく記載されているのでここでは詳細については述べないが、千葉県は国内生産量(年間約7,000t)の90%を、また、世界の生産量のほぼ40%を占め、生産されたヨードのほとんどは全世界に輸出されている。なお、本プラントの敷地はまわりを林に囲まれているため、騒音などで周囲から苦情がくることはないが、花粉症の人にはこたえるとのことであった。

この後坑井基地BE-59、60を見学したが、時間の関係で坑井基地内へ立ち入ることはできなかった。BE-59は浅層を仕上げられており、BE-60は深層(黄和田層)で仕上げられている。これらの坑井は九十九里の平野に位置する唯一の坑井である。この坑井基地では坑内トラブルが起きた場合、改修用のリグが入れるように敷地は広く取られているが、これは帝国石油独自のものであるとのことであった。

以上で予定されていた見学地点はすべて訪問したことになり、その後バスは成東の駅に寄った後、ほぼ予定通り午後5時過ぎに千葉駅に着いた。今回の見学会は参加者の日ごろの行いがよいせいか、時々雨がぱらついたものの、大雨にたたられることもなく予定どおり終了することができた。ここでは取りあげることができないのが残念であるが、案内者のかたがたには非常に有益な資料を配布していただき、地質にしても施設にしても理解する上で非常に役立った。案内者のかたがたおよび帝国石油(株)千葉鉱業所の皆様にあらためて御礼申し上げたい。また、今回の見学会を実質的に企画・立案された地質調査所の徳橋氏、そして事務局サイドからいろいろサポートしていただいた石油技術協会事務局の児玉氏にも厚く御礼申し上げる。来年の見学会も有意義なものになるよう期待して、今回の見学会報告とさせていただきたい。

(文責:田中哲夫、日本石油開発(株)探鉱部)